「帰れない故郷」は、日本にも来る — ニュージーランドの湖畔で起きていること

Future

こんにちは、HIROです。

今日は、地球の反対側の話から始めさせてください。遠い国の話に聞こえるかもしれませんが、たぶんこれは、少し先の日本の姿です。


1. 丘の上に、世界の富裕層が家を買っている

ニュージーランド南島の、クイーンズタウンという町があります。湖と山に囲まれた、世界でも有数の美しい場所です。

その周辺に、「ミリオネアズ・ロウ」と呼ばれる一帯があります。世界の大富豪が、「万一のときに逃げ込む南半球の拠点」として家を持っている地域です。

たとえば、PayPalの創業者であるピーター・ティール。彼は2011年、この国に通算12日しか滞在しないまま特例で市民権を得て、ワナカ湖畔に193ヘクタールもの土地を手に入れました。山荘の建設計画は地元の反対で認められませんでしたが、クイーンズタウンの邸宅には、世界が終末に近づいたときのためのセーフルームがあると報じられています。

周辺には、外から見ただけでは分からないけれど、地下に映画館つきの600平米の空間を持つような家が並んでいます。そしてニュージーランドが2025年、外国人にも500万NZドルを超える高額住宅の購入を認めたことで、クイーンズタウンの空港は、プライベートジェットの離着陸で混雑するようになりました。

彼らが買っているのは、別荘ではありません。逃げ場所です。


2. 丘の下に、帰れなくなった人たちがいる

その丘の下の土地は、もともとナイタフ族(ンガイ・タフ)のものでした。

1848年、彼らは南島の大半にあたる約2000万エーカーを、わずか2000ポンドで英国王室に売りました。そのとき約束された居住用の土地は、結局与えられませんでした。

それから150年。彼らは請求を続け、1998年にようやく、1億7000万NZドルの補償と、国からの正式な謝罪を受け取ります。部族はその資金を元手に事業と投資を行い、資産を20億ドル規模にまで育てました。先住民の和解としては、世界的にも成功例として語られる話です。

でも、ここからが本題です。

その20億ドルを、登録されている部族員8万人で割ると、一人あたり2万5000ドル。丘の上の家は、一軒2500万ドル。その差、およそ1000倍。いまや部族員の多くは、家が高すぎて、自分たちの先祖の土地であるクイーンズタウンに住めません。

丘の上丘の下
住んでいる人世界の富裕層もともとその土地にいた人たち
湖の意味万一のときの避難所帰れない故郷
金額の感覚家一軒 2500万ドル一人あたり 2万5000ドル
そこにいる時間年に数日、あるいはゼロ生まれてから、ずっと

同じ湖を、片方は「たぶん使わない避難所」として眺め、もう片方は「もう帰れない故郷」として眺めている。

1848年に2000ポンドで売られた土地の上に、いま一区画2000万ドルの門が建っている。

私はアメリカのミシガンに住んでいます。デトロイトには「8マイル・ロード」という有名な道があります。道を一本はさんで、向こう側とこちら側で、暮らしも治安も学校もまったく違う。その境界線を、私は毎日の生活の中で見ています。クイーンズタウンで起きているのは、湖を舞台にした、同じことなのだと思いました。


3. 日本でも、もう始まっている

「それは海外の話でしょう」と思うかもしれません。でも、日本にもすでに同じ構図があります。

いちばん分かりやすいのがニセコです。外国資本がスキー場周辺の土地を買い、価格が上がり、そこで働く人が町に住めなくなって、隣町から通う。地価の上昇率では、北海道の富良野や倶知安が上位に並び、長野の白馬や妙高にも「次のニセコ」を探す動きが広がっています。京都、沖縄、軽井沢、そして都心のマンションも、同じ流れの中にあります。

しかも日本は、ニュージーランドより規制がゆるい国です。ニュージーランドは2018年にいったん外国人の住宅購入を禁止し、2025年に高額物件だけ解禁しました。一方の日本には、外国人の不動産取得そのものを制限する仕組みがほとんどありません。政府はいま有識者会議を立ち上げ、登記での国籍登録の義務化などを検討している段階です。

つまり日本は、ニュージーランドが一度閉めた扉を、まだ開けたままにしている状態です。


4. 日本に来るのは「全部が高くなる未来」ではない

ここは、はっきり分けて考えておきたいところです。

ニュージーランドは人口が増えている国ですが、日本は減っていきます。だから日本で起きるのは、「全部が高くなる」ではなく、真っ二つに分かれるという変化です。

選ばれた場所それ以外の場所
具体例ニセコ・白馬・京都・沖縄・都心多くの地方都市・郊外
価格世界の資金が集まり、上がり続ける人口減少と空き家で、下がり続ける
住む人地元の人が住めなくなる住む人そのものが減っていく
決める要因世界から見た希少性国内の人口動態

「家が高すぎて買えない」と「家が余って売れない」が、同じ国の中で同時に起きる。これが、日本に来る未来だと私は見ています。円安が続けば、外から見た日本の不動産は「安い」ままなので、この流れはさらに強まりやすくなります。

そしてもうひとつ、ナイタフ族の話が教えてくれることがあります。

土地の価値が上がることと、そこに暮らす人が豊かになることは、別の話だということです。部族は資産20億ドルを築きました。それでも、多くの部族員は故郷に住めません。地価の上昇は、必ずしも住民の幸せにはつながらないのです。


5. 備えている人は、もう備え終えている

この話で私がいちばん考えさせられたのは、格差の大きさよりも、備え方の差でした。

世界の富裕層は、通貨も、資産も、そして住む国さえも分散しています。南半球に避難用の家を買うところまでやっている人がいる一方で、多くの人は円の預金だけを持っている。

これは金額の差である以上に、「分散する」という発想を持っているかどうかの差です。そして発想のほうは、金額が小さくても真似ができます。

備え小さく始めるなら
通貨を分ける円の預金だけにせず、外貨建ての資産も少し持つ
資産の種類を分ける預金・株式・投資信託などに分けておく
収入の柱を増やす本業以外に、小さくても second の収入をつくる
住む場所を選べるようにする働き方やスキルを「場所に縛られない形」に寄せていく
人とのつながりを持つ地元・地域・仲間との関係は、お金で買えない資産になる

避難用の家は買えません。でも、「ひとつのカゴに全部を入れない」という考え方だけなら、今日から実行できます。


まとめ:少し先の未来を、先に見ておく

クイーンズタウンの湖畔で起きていることは、特別な国の、特別な人たちの話ではありません。世界の資金が、代わりのきかない場所に集まり、もともとそこにいた人が住めなくなる。その現象が、日本でも静かに始まっています。

怖がる必要はありません。ただ、先に知っておくことには意味があります。流れが見えていれば、ニュースを見ても必要以上に揺れず、自分の順番が来たときに落ち着いて動けます。

遠い国の湖の話を、自分の街の話として読む。そういう目を持っておくことが、これからの時代のいちばんの備えなのかもしれません。


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